11.重要事項説明書を確認しよう

価格交渉・契約締結

 買付書を提出して売主側へ受理されると、次のステップとしては重要事項説明書の説明を受け、売買契約を締結することになります。初めての方には?な内容が沢山だと思いますので、重要ポイントに絞って説明したいと思います。

重要事項説明書と売買契約書の違い

 まず重要事項説明書と売買契約書の違いについてです。それぞれの書類の位置づけは以下の通りです。
 ・重要事項説明書・・・購入物件の詳細な説明が書かれています。
 ・売買契約書・・・売買の契約内容が書かれています。

これだけだとよく分からないと思うので詳しく解説します。
 不動産という高額な商品を知識の少ない一般の方がよくわからないうちに契約してしまい、後で思わぬ損害を被らないようにするため、取引に関わる不動産業者がその不動産の購入者に対して、契約前に最低限説明しないければいけない内容が法律(宅地建物取引業法)で定められています。この説明が書かれたのが「重要事項説明書」で、これを基に不動産業者は説明する義務があり、この説明は宅地建物取引士の資格を持つ人しか出来ません。(この説明に虚偽の内容があった場合、宅地建物取引士が責任を負います)

 そのため、重要事項説明書に署名捺印するということは、「この物件がどんなものか説明を受け、よく分かりました。」ということになります。そのため、重要事項説明書で疑問点・不審な内容があれば必ず確認するようにしましょう。ここで質問しなければ、あなたが説明を聞く・質問をする権利を放棄したことになり、そのまま売買契約することになります。
 以上の位置づけから、重要事項説明書には物件についての懸念事項が必ず書かれていますので、契約前に熟読しておきましょう。


 売買契約書はその名の通り、物件売買の契約書です。売買契約書に署名押印すると売買が成立します。そのため、契約の流れとしては
 宅地建物取引士が重要事項説明書を説明する(買おうとしている物件は、こういうものですよ。本当に買いますか?)
→(内容を理解しました。)→購入者が重要事項説明書に署名捺印する
→購入者が売買契約書に署名捺印する(契約成立!)
となります。
 (正確には売主の署名捺印のステップがありますが、そこは気にしないで下さい。)

 契約当日は、宅地建物取引士が「重要事項説明書」「売買契約書」の両方を一通り読み上げてくれますが、細かく確認する時間はありません。それに当日質問しても対応できない場合も十分考えられます。そうなった場合、契約日は別日になり、売主や融資先の金融機関にも影響する場合もありますので、事前に重要事項説明書、売買契約書のドラフト(草案)を取り寄せて、確認しておくことを強く推奨します。

重要事項説明書のチェックポイント

 やっと本題に入ります。重要事項説明書は不動産業者によって、様式が変わるため、例を載せての説明が難しいですが、物件の情報(所在地、用途地域、設備の状態など)とその他条項(注意書き、特約)に別れていると思います。それぞれのチェックポイントは以下になります。

〇物件の情報
1.仲介する不動産業者、説明する宅地建物取引士、供託所に関する情報は合っているか
2.物件名称、住居表示、床面積、築年数は合っているか。
3.借地権や定期借家権ではなく、所有権となっているか。
4.修繕積立金の金額、既存の積立額・滞納額を確認する。
5.売買代金、手付金の金額は合っているか。

〇その他条項
6.「融資利用の特約」の項目の記載があり、かつ有効となっているか。
7.「引渡し前の滅失・毀損」の項目の記載があり、かつ有効となっているか。
8.付帯設備表は明記されているか。
9.既存不適格の文言がないか。
10.契約不適合責任(瑕疵担保責任)の扱いはどうなっているか。

  順に見ていきたいと思います。
〇1「仲介する不動産業者~」について
 喫茶店等で契約する場合は、必ず事前に確認しておく必要があります。というのも、オンラインで問合せを行い、喫茶店等で売買契約を行うと、本当に実在する不動産業者なのか確認が出来ないからです。そのため詐欺師と架空の売買契約を締結している可能性もあり、「手付金だけ取られた!」なんてことに成りかねません。不動産業者が正規の業者かどうかは以下で確認できます。
 ・国土交通省 宅地建物取引業者検索システム
 https://etsuran.mlit.go.jp/TAKKEN/takkenKensaku.do

 また、不動産業者は手付金等を預かることが多く、手付金等を運用資金等に使い込んで倒産した場合に購入者が泣き寝入しないよう法務局もしくは保証協会に営業保証金を預けることが義務づけられています。そして、不動産業者が倒産等で手付金を返済できない場合は、法務局or保証協会が代わりに返済してくれるというシステム※があります。そのため物件の売買を行うときは、購入者に対して手付金を保証してくれる「供託所」の情報を提供することが義務づけられています。正規の不動産業者であれば問題ありませんが、本当に保証協会に所属しているかは確認しておくことをオススメします。以下のサイトで検索できるので見てみるといいでしょう。(法務局のみに弁済業務保証金を供託している業者はほとんどないと思われます。)
 ※2017年以降、宅建業者はこの弁済保証の対象外となっています。
 ・公益社団法人全国宅地建物取引業保証協会東京支部(東京以外は別HPです)
 https://search.tokyo-takken.or.jp/
 ・公益社団法人不動産保証協会 会員検索HP
 https://www.zennichi.or.jp/member_search/

〇2「物件名称~」について
 基本的な事項ですので、ここが間違っているとそもそもダメです。買付を入れた後に登記事項証明書を貰うことが多いと思いますが、貰っていなかったら、取り寄せして項目をチェックしましょう。

〇3「借地権や定期借家権~」について
 所有権だと思っていたら、借地権の物件だったということがないようチェックしましょう。ここが後戻り出来る最後のところです。

〇4「修繕積立金の金額~」について
 修繕積立金は毎月の支払うことになるので、金額を確認しておきましょう。また、既存の積立額・滞納額を確認しておきましょう。マンションの規模にもよりますが、築10年超えで1,000万を割っているようであれば赤信号です。築20年を経過するくらいで外壁塗装などが必要となるため、修繕積立金が不足する可能性が高いです。また滞納額が積立額の1割を超えている場合も要注意です。長期滞納者が多くいる証拠です。近年修繕積立金が問題になっていることが多いため、都心の築浅でこういったマンションは見かけませんが、築古マンションでこういったケースは十分あり得るため、確認しておきましょう。あんまりひどい場合は、管理もされていない可能性が高く、勇気を持って購入を見送りましょう。

〇5「売買代金~」について
 基本ですがとても重要な事項です。買付書の内容と一致しているか確認しましょう。

〇6「融資利用の特約~」について
 ここで確認したいのは、この売買契約書で「ローン特約」が有効になっているかどうかです。ローン特約というのは、買主が銀行の審査に落ち融資が受けられない場合、売買契約を無効にできるという特約です。この場合、不動産業者への仲介手数料も免除されます。つまりローン審査で落ちたときの「最後の砦」となるので、必ずローン特約を付けるようにしましょう。ローン特約を付けずに契約してしまうと、手付金を放棄しての契約解除しか出来なくなる上、不動産業者への仲介手数料もがっつり取られることになります。このようなローン特約を敢えて外して契約させる悪徳な業者とは出会ったことはありませんが、注意しておくに越したことはありません。ぜひ注意して見て下さい。

〇7「引渡し前の滅失・毀損~」について
 2020年4月に民法改正があったのでこの項目を確認する必要性は下がりましたが、改正されたばかりで判例などもないことから、必ず裁判で勝てるか不明ですし確認しておくべき項目だと思われます。「引渡し前の滅失・毀損」の項目には、売買契約を締結後引渡前であれば、火事や地震等で物件がなくなった場合、買主は契約を無効にできるという内容が書かれています。これが記載されていない場合、民法改正前の不動産売買においては、物件がなくなっても買主は代金を支払う義務が残る制度になっていました。実際これが理由で、阪神大震災や東日本大震災で泣いた人も沢山いたと思われます。現在は民法が改正されたため、「引渡し前の滅失・毀損」(いわゆる危険負担)の条文がなくても、物件が自然災害等で消滅しても売主負担となります。しかしこの項目は不動産投資において、ローン特約同様に必ず確認しておかないと致命傷を負いかねない項目ですので、必ず確認して下さい。また逆に、この「危険負担」が買主負担と明記されていないかという視点でも確認しておきましょう。
 じゃあ、あなたが物件を売るときはどうするのかですが、売主は自分の所有物件に火災・地震保険を掛けておくことでリスク回避が出来ます。買主はこれが出来ませんので、今回の民法改正は良かったと思います。保険についても別の機会に書きたいと思います。

〇8「付帯設備表~」について
 付帯設備表とは、文字通りその物件に付帯している設備を一覧にしたものです。ワンルームだと不動産業者が面倒くさがって勝手に省略しますと言ってきたりしますが、基本的には作って貰いましょう。主に給湯器、エアコン、照明器具が対象となります。物件に付属する設備を明確にするとともに、入居中の賃借人が退去するときに揉めないようにする意味もあります。中には照明器具やエアコンを持っていく賃借人もいると聞いたことがあるので、どこまでが物件の付属物なのかは明らかにしておく必要があります。賃借人が住んでいる状態であれば、現状確認が出来ないため、状態は「不明」となりますが、そこは我慢しましょう。

〇9「既存不適格~」について
 まず「既存不適格」について説明します。既存不適格とは、建築当時は合法だったものの、建築基準法が改正されたため、現状は基準を満たさなくなった物件のことです。良くあるのが容積率オーバーです。昭和56年に改正された建築基準法では、それまで高さ31mの制限だけだったのですが、新たに容積率が制定されたため、違法状態(正確には違法ではありませんが)になる建物が出てきました。容積率がオーバーしていると何が問題かと言うと、再建築がほぼ不可能だということです。法律上、道路接道幅が2m以上あれば再建築自体できますが、容積率の制限があるため、同じ高さの建物が建てられません。そのため再建築した場合、各所有者の物件面積が狭くなるor階層が異なるといった事象が必ず発生し、権利関係で揉めるのが目に見えています。取り壊して再建築するのは至難の技と言えるでしょう。昭和56年以前の建築物だと40年近く経過していますから、取り壊しが見えていますし、そんな苦労が見えている物件は買わないのが賢明です。この「既存不適格」の項目があれば、購入は止めておきましょう。

〇10「契約不適合責任~」について
 契約不適合責任(瑕疵担保責任)とは何かから説明します。契約不適合責任とは売買契約で、物件に不備(雨漏り、シロアリなど)が発覚した場合に、売主が買主に対して負う責任のことです。以下の2つの法律で売主の責任で保証しなさいとされています。
 ・宅地建物取引業法(宅建業者が売る場合)
 ・消費者契約法(消費者が買う場合)

 ここをお読みの方で不動産を購入するケースは、投資として購入されると思いますので、消費者契約法は(基本的に)適用外となります。消費者契約法が適用となるのは、その不動産に自分が住む場合のみです。投資用(事業用)としての購入する場合は消費者と見なされず、事業者と見なされるためです。基本的には知識のない弱者(消費者)を守るための法律ですので、事業をする人はそれでお金を稼ぐ訳ですからプロという扱いです。そのため消費者契約法では(基本的に)保護されません。
 宅地建物取引業法の方は、宅建業者からそれ以外の業者を保護する目的で制定されています。宅建業者は不動産に精通していますので、宅建業者以外に対して不利益を被るような契約が出来ないように制限を掛けています。そのため、宅建業者(不動産業者)から直接物件を購入する場合は自分が宅建業者(精通レベルのプロ)でない限り、契約不適合責任(瑕疵担保責任)が付きます
 参考に以下の全日本不動産協会のHPが分かりやすいと思います。
https://www.zennichi.or.jp/law_faq/%E6%B6%88%E8%B2%BB%E8%80%85%E5%A5%91%E7%B4%84%E6%B3%95%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E7%91%95%E7%96%B5%E6%8B%85%E4%BF%9D%E8%B2%AC%E4%BB%BB%E3%81%AE%E5%8F%96%E6%89%B1%E3%81%84/

 話が長くなりましたが、この契約不適合責任(瑕疵担保責任)は、不動産投資においては、宅建業者(不動産業者)から購入しない限り基本的には付かないことが多いのです。
(法律上義務付けられていないため、売主としては付ける必要がありませんので、普通は付けて売らないと思います。私は絶対に拒否します。)
 しかし、中間省略という形で宅建業者(不動産業者)から直接購入する形になった場合は付けて貰いましょう。(中間省略とは、売主と買主の間に不動産業者が一旦入り、売主⇔不動産業者、不動産業者⇔買主という2つの売買契約により販売する形態です。なぜこんなことをするかは別記事で書きたいと思います。)

※民法改正で契約不適合責任(瑕疵担保責任)の請求内容・範囲は買主側に有利なように変更されたものの、そもそも免責事項にされてしまうことがほとんどですので、不動産売買における影響はあまりないと個人的には思っています。
 売主側が契約不適合を知っていながらこれを告げずに売買契約を締結した場合は責任を問われますが、そうでない場合、結局売主には責任が発生しません。中古物件を業者以外から購入する場合、付いていればラッキー程度に思うのがいいと思います。


 非常に長くなりましたが、今回はここまで。次回は売買契約書ですが、中身は重要事項説明書と被るところがほとんどで、チェックポイントはほぼ同じため、簡単にサクッと書きたいと思います。では~。

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