20.法人設立による節税方法(その1)

節税方法

 不動産投資を拡大していく上で節税や相続という観点から、個人事業主で継続するのかと法人設立するのかで悩まれている方も多いと思います。ここでは法人設立形態を説明した後、法人のみで可能な節税方法および法人設立のメリット、デメリットをご紹介したいと思います。

設立する法人の形態

 法人を設立すると税法上有利な点が多くあり、節税がはかどります。不動産法人を設立するとして、どのようなスキームがあるのか挙げてみたいと思います。主に以下の3種類あります。
 ①賃貸物件の管理
 ②サブリース契約
 ③所有権移転

結論から言いますと②or③がオススメで、1軒目から法人を設立してスタートするのか、既に軒数をある程度持っているのかによって変わってきます。相続まで考えるのであれば最終的には③がいいと思いますが、個人の家庭事情にも因るところがありますので、③のデメリットを考慮して決めるのがいいと思います。

順に説明していきます。
①賃貸物件の管理
 個人事業主から法人成をする場合、既に個人所有の物件があると思います。これを法人名義に変更するのは、登記手続だけでなく、銀行への金消契約・抵当権設定関係の手続きが必要であり、大変コストと時間がかかります。その上銀行に否認されると、所有権を法人へ移すこと自体ができなくなります。これらを考慮すると、物件の所有権は個人のままにしておき、物件の管理を法人側で実施することで、家賃の5%程度を法人収入にすることができるスキームです。物件の管理を自分の会社に委託することで、個人→法人へ不動産事業の収益を移し、個人事業主の税金を減らしています。

①のメリット:
 管理を個人→法人へ移すだけですので、手続きが非常に楽です。法人と個人で管理委託契約を締結し、賃借人へ連絡するだけです。法人と個人で電話番号が同じで電話受付も自分でやるなら、実務上、この賃借人への連絡すらも不要かもしれません。この方法は一番手続きが楽なことがメリットです。

①のデメリット:
 法人の業務としては物件の管理のみですので、物件1軒あたり3,000円程度、最大でも家賃の5%程度しか法人収入に移せません。個人の所得税が高いため、法人へ収入を移し節税したいのに、1軒3,000円程度では効果は薄いです。

 以上から法人としての収入が少なく、経費ばかり使っているとすぐに赤字になりますし、法人設立の旨味がほとんどないのがこの①の方法になります。


②サブリース契約
 この方法は「かぼちゃの馬車」で有名になりましたが、設立した法人が個人の物件を借り上げし、法人が客付けするという形態を取ります。法人の業務としては、家賃保証+物件管理となりますので、当然①よりは法人への支払いを増やすことができます。
家賃保証は地域や物件次第ですが、私は家賃の20%にしています。物件管理5%ですので、合計で家賃の25%を報酬として法人へ支払っています。家賃保証は空室でも家賃を固定で支払う必要があり、リスクを背負っているため、20%程度取っても問題ないようです。顧問税理士からも特に異論がなかったことと、所有物件最寄りの大手賃貸専門不動産業者のサブリース料金が25%相当だったことから、私は25%としています。ボロの木造1棟などであれば、空室リスクが高いため、30%以上取ってもいいではないでしょうか。むしろそれくらいやらないと法人側で利益が出ないと思います。

②のメリット:
 法人業務として家賃保証+物件管理をしますので、家賃の25%程度を報酬として取ることができます。そのため、個人事業主側の不動産事業利益の大半を法人へ移すことが可能となります。

②のデメリット:
 家賃保証+物件管理の形態となるため、賃借人との契約は設立した法人へ変更する必要があります。そのため1軒ごとにサブリース契約書を作成し、物件を売買したときのように賃借人へ、家賃の振込先を変更する通知をする必要があります。委託管理とは異なり、物件設備の修繕費を所有者(個人事業主)と法人のどちらで負担するか等を細かく決めておく必要があり、サブリース契約書を作るだけでも一苦労すると思います。以下に国交省のサブリース契約書の雛形があるHPのリンクを貼っておきます。ご参考に。
『サブリース住宅原賃貸借標準契約書』について
 ここで1点注意する必要があるのが、この国交省の雛形はサブリース業者が使用することを前提としていますので、壁紙の張替やエアコン・給湯器の取替などをサブリース業者が負担する記載となっています。このまま使ってもいいですが、法人側の負担が増えてしまうため、個人事業主側で負担するよう記載を変更して使用すると、法人側の負担を減らすことができます。本来、建物の付属品については所有権者が負担すべきですので、個人事業主側負担にしても何ら問題ありません。もっと言うと民間契約ですので、どちらが負担してもいいのです。
 また法人収入ですが、マンション管理費を差し引く前の割合(25%)なのか差し引いた後の割合(25%)なのかといったところもきちんと明確に金額を記載して決めておきましょう。もちろん管理費を差し引く前の金額に対して設定する方が法人報酬は増えます。

 以上のように、サブリース契約の形態にすると法人へ支払いを増やすことが可能となり、①と比べて格段に個人事業主側の所得を下げることができます。ちなみに私はこの②の形態で運営して節税しています。


③所有権移転
 この方法は、個人で所有している物件を法人所有へ切替する方法です。法人で物件を所有するため、利益は全て法人のものとなります。全ての物件を法人へ移転すれば、個人事業主としての登録も不要となります。

③のメリット:
 不動産事業の収益が全て法人に移りますので、個人の不動産所得が完全になくなります。また②と比較したときに、相続や生前贈与をする場合でも、法人であれば株数により明確に平等に分けることができ、「争族」を防止できますw 

③のデメリット:
 所有権の移転手続きはとても大変で、上にも書きましたが、銀行の金銭消費貸借契約手続き、登記手続きが発生しますので、司法書士の費用や銀行の事務手数料が発生します。その上、個人から法人への譲渡額が高すぎたり、低すぎたりすると譲渡益(個人側、法人側)が発生し課税されるため、顧問税理士や不動産鑑定士と相談の上、適正な譲渡額を決める必要があります。もちろん、②と同様に賃借人への書面による正式な通知が必要になります。
 所有権移転には費用と手間がとても掛かるため、3軒以上物件を所有している場合は、②のスキームで運用した方がいいと個人的には思ったりします。また、個人的には1軒だけは個人所有しておき、個人事業主としても継続して不動産事業の経費を計上し所得税を節税することをオススメします。

 全てを法人所有へ移転するのは、②よりもメリットがありますが、手間と時間と費用が非常に掛かります。法人を設立してスタートするのがオススメですが、不動産投資自体が自分に合わない可能性もあるため、1,2軒購入してから法人設立するのが一番いいのかもしれません。


 今回は設立する法人の形態について、解説しました。法人設立によって、どんな節税ができるのかを期待していた方には肩透かしをさせてしまったかもしれません。次回こそ法人設立でしかできない節税方法を紹介したいと思います。ではー。

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