今回は不動産事業において、購入の次に大切な客付けについて書きたいと思います。賃借人から退去予定の連絡を貰うと、大家としては次の入居者を探す必要があります。清掃や修繕は退去日や部屋の状況を見て速やかに手配することになりますが、それ以外では以下のことを決める必要があります。
1.募集家賃(敷金・礼金)の設定
2.仲介不動産業者への広告料
家賃の設定はどうしたらいいの?
基本的には、周辺物件との比較になりますので相場で決まります。ホームズやSUMOで家賃相場を確認しましょう。大幅に変化している場合は検討が必要ですが、新築から継続して入居していたケースや10年以上入居していたケースを除けば、ほとんど変わらないことが多いと思います。
相場に合わせた家賃を設定するのですが、投資家としては当然利回りを追求し高い家賃を取りたいと思うのが人間の心理です。1月末~3月頭にかけては強気の家賃設定でも需要>供給となっていることが多く、入居して貰えると思います。しかし、私の経験としては限界ぎりぎりの強気家賃を取ることをオススメしません。というのも、入居した人も年度末の時期で高い家賃の部屋しか残ってなかったから仕方なく入ったというのは分かっていますから、5月以降になって数千円安い家賃の部屋が見つかれば引越しようとするからです。特にワンルームだと身軽なので、その傾向が強いと思います。(当然1年以内の解約は罰金を取るという条項を設けて賃借人を縛る方法もありますが、1年間縛ったところで結局出られると痛いですし、儲かるのは仲介不動産業者だけです。)
ではどうするのかというと通常相場より1~2,000円程度安い家賃で募集すると埋まりやすいですし、退去しにくいです。賃借人の人も、自分が相場より安くで入居出来ていると思うと部屋に問題が無い限り自発的に引越しようとはしません。結婚や転勤以外での退去がなくなると長期で住んで貰える確率が上がります。キャッシュフロー計算のところでも書きましたが、入退去による不動産業者への手数料が一番金食い虫ですので、長期で住んで貰うのがトータルで考えると一番経営効率が高いのです。何より部屋の清掃、入退去立会、空室時の修繕立会をする必要がない上、機器故障時も賃借人が無料で立会してくれる訳ですから、手間も掛かりません。
不動産業者へ毎月3,000円支払って管理を任せるくらいなら、自主管理して家賃を2,000円安くした方が賃借人と大家双方にいいと思いませんか?こういう理由もあって、私は遠隔地や海外へ転勤にならない限り、所有物件が数十軒になっても自主管理するつもりです。
ただし、売却を検討している物件については、言うまでも無く家賃は高めに設定する方がいいです。売却時は不動産投資物件として売却することになりますから、どうしても家賃が取れていないと利回りが下がってしまい、売買価格が下がってしまいます。そのため、下記に記載している仲介不動産業者への広告料を2~3ヶ月にして、年度末シーズンで募集をかけて限界ぎりぎりの強気家賃で契約するのが戦略としてはいいと思われます。表面上利回りがよく見えますので、広告料が1~2ヶ月分高くなっても十分ペイできると思います。
敷金・礼金の設定ですが、私は基本的に無し無しにすることが多いです。取れるエリアは取りますが、無しのエリアで家賃を低めにして無理に礼金を取るような設定にはしません。敷金、礼金を設定すると入居者の質は高まりますし、滞納リスクはかなり軽減されますが、都心の築浅物件以外は難しいと思っています。
あと参考ですが、私の所有物件ではここ数年で家賃が上昇しています。物件が古くなると家賃は下落するのが一般的な認識ですが、実態としてはそうなっていません。日本のGDP成長率がアメリカ等と比べて低いと言われて久しいですが、デフレではありませんので、それなりに物価は上がっています。アメリカのハワイやカルフォルニアでは、毎年家賃を強制的に改定しているそうですが、そこまでではないにしても日本でも都心物件についてはじわじわと家賃が上がっています。私の経験では、前の賃借人と同じ家賃で賃貸募集の相談に行くと、もっと取れますよと言われることがしばしばあります。これが何を意味しているかというと、ばらまき政策、日銀ETF買い入れによって日々日本円が水増しされており、有価物に対する「通貨」の価値が相対的に下がり、消費税増税の効果もあって物価は確実に上がってきているということです。コロナ対策としても国民全員に10万円のばらまきがあった上に、事業者にも100~200万円の支給がありました。もしこれが国民全員に1億円とかだったら、どうなるでしょうか?多くの人が車や家とかを買おうとするでしょうし、確実にインフレが起こりますよね?1億円は極端にしても、10万円・100万円の支給は、日銀が1万円札を大量に印刷して市場に出しているのと変わりないですので、今後しばらくはインフレ気味になると思っています。この傾向が続き、銀行の金利<物価の上昇率であれば、当たり前ですが借金をした方がお得です。そう考えると、しばらくの間は融資を受けて不動産を購入することはとてもいい買い物だと思います。(もちろんリスクはありますよ?)
仲介不動産業者への依頼方法
不動産業者が賃貸の仲介をする場合、賃借人と大家それぞれに以下の名目で費用が発生します。それぞれの費用をパターンごとに説明していきます。
〇賃借人
仲介手数料+敷金+礼金
〇大家
仲介手数料+広告料
ちなみに仲介手数料には宅建業法上制約があり、賃借人と大家の仲介手数料は合計で家賃の1ヶ月が上限と定められています。ですが、全然機能していないのが実態です。
賃貸の仲介には大きく分けて2パターンあります。(売買と同じですね)
1.賃借人⇔仲介業者(賃借人側)⇔仲介業者(大家側)⇔大家
2.賃借人⇔仲介業者⇔大家
結論としては、2のパターンで客付けできると仲介手数料+広告料が抑えられます。以下詳しく解説していきます。
1.賃借人⇔仲介業者(賃借人側)⇔仲介業者(大家側)⇔大家のパターン
管理委託していると確実にこのパターンになります。管理委託している業者が専任媒介の「仲介業者(大家側)」となりますが、この会社は賃貸の専門ではないため直接賃借人を探して契約はしてくれません。レインズという不動産業者だけがアクセスできるサイトに広告を出すだけで、後は賃貸専門の業者が賃借人を見つけて(客付けして)くれるのを待っているだけです。このレインズへ広告を掲載するときに、客付けしてくれたときの報酬額も掲載することになっており、この報酬額は通常家賃1ヶ月が相場で、2ヶ月~3ヶ月だと多めといった感じとなります。つまり大家は、仲介業者(大家側)と仲介業者(賃借人側)にそれぞれ家賃1ヶ月分を支払うのが最低ラインとなります。逆に賃借人は仲介業者(賃借人側)へ家賃1ヶ月分を支払うため、仲介業者(賃借人側)は2ヶ月分の収入を得ることになります。レインズへ報酬額なし(0円)で掲載しても構いませんが、仲介業者(賃借人側)はそんな物件を紹介しようと思わないので見向きもされません。賃貸専門の仲介業者としては、1件の成約に対する報酬額は家賃2ヶ月分(大家側と賃借人側からそれぞれ1ヶ月)というのが、不動産業界のスタンダードになっているからです。
この構図から分かる通り、間に入っている「仲介業者(大家側)」はレインズに登録するだけで、ろくに仕事もしていないのに簡単に仲介手数料(実際は広告料という名目)家賃1ヶ月分が入ってくる訳ですから、ウハウハです。しかも管理費と題して、毎月固定で2~3,000円の収入も得られる訳ですから、すごく安定した楽な仕事となります。区分マンションの管理委託は利回りが激減するため、止めておきましょう。
ちょっと話は逸れましたが、以上のことから管理委託している不動産業者への客付けは無駄が多く、費用だけがかさむためオススメしません。管理委託契約の中で、賃貸の仲介を専任で請け負うところまでを委託内容と記載されている場合は、賃貸の専任媒介を回避できませんが、そうでなければ以下に記載している2のパターンで出来るだけ客付けしましょう。
2.賃借人⇔仲介業者⇔大家のパターン
いわゆる両手取引と言われる形態で、仲介業者が1社で契約が完結するケースです。これは大家が直接賃貸専門の業者へ仲介依頼し、報酬額を1ヶ月にすると、自動的にこのパターンになります。私は常にこの方法で客付けしています。方法としては、当該物件の最寄り駅付近にある大手の看板を掲げている賃貸専門の業者(アパマン、エイブル、ピタットハウス、ミニミニ、賃貸住宅サービス等)のうち3~4社へ「一般媒介」として依頼を出します。専任媒介にして欲しいと言われることがあるとおもいますが、絶対に専任媒介にしてはいけません。一般媒介で報酬額を1ヶ月とすると、1のようにもう1社仲介の不動産業者が入ることがなくなります。そのため、部屋探しをしている人に物件を紹介して貰えるのは、当該の不動産業者へ訪問してきたお客さんだけになり、機会は減っていまいますが必要な経費は半額となります。もちろん物件を紹介して貰える機会は多い方がいいに決まっていますので、3~4社に並行して依頼することでそのリスクを軽減しています。もっと言えば、ターミナルから1~2駅の物件であれば、ターミナル駅前の賃貸専門の大手の看板を掲げている業者にも足を運んで一般媒介をお願いしましょう。手間は掛かりますが沢山の業者に依頼することにより、部屋を探している方の目に触れる機会を増やすことが出来ます。1点注意なのが、同じフランチャイズの場合、近隣の店舗だと同じ不動産業者が経営している可能性もあるため、その場合は複数店舗に依頼する意味はありません。複数店舗を持っている業者の場合、違う店舗で受け付けた物件も連携して紹介してくれるため、同じ業者の複数店舗に依頼してしまうと嫌われます。事前にHPなどで確認してから行くと間違いないでしょう。
このパターン2だと自分が各業者と直接やりとりすることになり、連絡等が煩雑になってしまいパターン1の方が楽だと思われる方もいると思います。しかし、逆にこうすることにより業者間で競争するので、いい物件(相場より相対的に安い魅力がある物件)であれば決まりやすいです。他の業者に仲介されてしまうと当然ですが、一円も入らなくなるため頑張ります。ところがパターン1のように専任媒介にしてしまうと、その窓口業者は放っておいても確実に1ヶ月分の家賃が入ってくることが確定していますので、他の一般媒介の物件(競争に勝たないと手数料が入らない物件)に注力して家賃2ヶ月分の売り上げを上げようとします。確実に1ヶ月分手に入る物件の営業を頑張っても+1ヶ月ですが、そうではない物件の営業を頑張れば売り上げが+2ヶ月分になるのであれば、どちらに労力を割くかは自明ですよね。
競争力のある物件であれば、業者としても強く営業しなくても自然に決まってしまいますから、積極的に取り扱いたいと思っています。そのため、一般媒介でも十分に選んで貰える物件であれば、専任媒介にして報酬額2~3ヶ月にする必要なんて全くないのです。専任媒介にして報酬額2~3ヶ月にするのは、売却する前提で高い家賃で入ってもらう必要があるときだけです。
大家としては最も費用が抑えられますので出来るだけこのパターンで募集するのがいいと思います。(遠隔地の物件や本業が忙しい人は、パターン1でもいいと思います。)
上記で大手の看板を掲げている賃貸専門の不動産業者へ依頼するようにと書きましたが、地場の業者や新規業者はダメなのでしょうか?結論から言うと、絶対に大手がいいです。というか大手以外に依頼するとデメリットはあっても、メリットはないと言ってもいいくらいです。理由は以下の通りです。
1.そもそも部屋探ししている人が訪問する確率が低い。
2.信用が低く、倒産するリスクがある。
私は一度だけ新規駆け出しだと思われる業者に仲介依頼をしたことがあるのですが、痛い目に会った経験があります。空室物件から一番近かったため、駆け出し業者に鍵を預けていました。あるとき、別の業者から内覧したいと連絡があったときに鍵を「駆け出し業者」から借りて下さいと伝えたところ、シャッターが閉まっていて鍵が借りられないと連絡がありました。知らない間に倒産していたのです。そのため、鍵が行方不明になっており、内覧出来ない状態が発生しました。当然、内覧希望者は部屋を見ることが出来なくなり、他の物件を見てそちらで決めてしまったという事象が発生しました。ちなみに、駆け出し業者の店舗シャッターには買い取った会社の連絡先の張り紙がしてあり、ここへ連絡してなんとか鍵を回収できましたが、まともな業者であれば、大家へ最終営業日までに事前に連絡して鍵を返却するものです。この件があってからは、大手以外には依頼していません。(空室時の鍵の扱いについては次回書きたいと思います。)
地場の業者については倒産することはあまりないと思いますが、基本的には売買や管理が専門ですので、賃貸を依頼するには向いていません。
逆に大手の看板を掲げているところだと何がいいかと言うと、部屋探しをしている人が圧倒的に集まります。自分が逆の立場になったときに、古い地場の業者のところに行きますか?CMで有名人使って宣伝しているチェーン店に行きませんか?これが一番の理由です。
あと、大手の看板を掲げているということは、当然チェーン店としての審査を受けており、それなりのクオリティがあることを意味しています。実績がなかったり、資金繰りが苦しいような業者にブランドの看板を掲げさせ、もし不正や違反があったらブランドに傷が付きますよね。そういった信用という面でも、賃貸の仲介は大手に依頼するのがいいと思います。
仲介手数料についての豆知識他
現状大手の業者は、賃借人側の仲介手数料を半月分or1ヶ月としているため、宅建業法上は大家側の仲介手数料は無料or半月分ということになります。ところが実経験として、大家側が半月分と言われたことがあるのはエイブルさんだけで、他の業者からは言われたことがありませんし、ましてや無料なんて選択肢を出されたことは皆無です。実態としては、広告料と称して大家側から1ヶ月以上徴収するのが常態化しています。つまり、最低でも賃借人と大家それぞれから1ヶ月分(合計2ヶ月分)の手数料を取っているところがほとんどです。
このこと自体が良い悪いというつもりはありません。本当に愚直に賃借人側と大家側から合計1ヶ月しか仲介手数料を取っていなかったら、不動産業者としては経営上まわらないのでしょう。
報酬額は1ヶ月と書きましたが、これより低い報酬だと不動産業者としては消極的になり、最悪レインズへ登録せずに放置したり、顧客への紹介すらしないといった状態になる可能性があります。アメリカと違って、一般人にレインズが閲覧できないことをいいことにこういったことが出来てしまうのが日本の不動産業界です。
私が1軒目の物件を所有していて空室になったときに、不動産業者の口車に乗せられて、専任媒介で賃貸募集を依頼してしまいました。そのときは何も分かっていなかったので、報酬額も1ヶ月にしていたのですが、最初はホームズやSUMOへの掲載もされず、放ったらかしにされていました。ホームズやSUMOどちらかに掲載するよう電話し、店舗への訪問を繰り返し、報酬額も1.5ヶ月にしたら動いてくれましたが、かなり横柄な態度でした。経験のない大家だと分かっていたので、舐められていたのだと思います。いい勉強になりました。
専任媒介にするということは、その業者に首根っこを掴まれているのと同じなのです。報酬額が1ヶ月だとレインズ上では報酬額0円となり、レインズ経由での仲介は期待できませんので、その店舗に来るお客さんだけが対象となってしまいます。ということは、その業者がその物件の生殺与奪を握っているのと同じなんですよね。その業者が店舗訪問するお客さんへ一切紹介しなかったら、ネットを除けば誰の目にも止まらないということになります。しかも専任媒介のため、他の業者に依頼することも出来ませんので、八方塞がりです。専任媒介を解除するか、報酬額を上げて紹介して貰えるようにするか、家賃を激安にしてネット上で目立つくらいしか方法がなくなります。暗に報酬額を上げてくれと言うことだったのでしょうけど、こちらが上げなかったため、私の物件は放置されていました。
上にも書きましたが、もしこれが専任媒介ではなく一般媒介にしていれば、他の業者も同じ物件を扱っている訳ですから話は変わってきますよね。私の経験ですが、仲介を依頼しにいって、ひつこく専任媒介を勧めてくる業者は信用&期待できません。とりあえず一般媒介の依頼だけしておいて、別の業者を訪問しましょう。
大変長くなりましたが、家賃設定、仲介業者への依頼方法については以上となります。本当は今回をシリーズ最後にしたかったのですが、空室時の物件の取扱いについて全く記載できなかったので、次回に続きます。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
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